ハーセプチンによる副作用

公開日:  最終更新日:2017/08/11

ハーセプチンとは

ハーセプチン(HERCEPTIN)とは、癌細胞を抑制するためのお薬です。

主に乳癌や胃癌の治療に利用されています。

本剤の主成分である、トラスツズマブ(遺伝子組換え)(Trastuzumab(Genetical Recombination))は、癌細胞が増殖に必要な「HER2タンパク」と結合することにより増殖を阻害します。

さらに、結合した癌細胞を免疫細胞(マクロファージ、好中球、NK細胞等)が攻撃することにより、癌細胞を破壊する作用もあります。

比較的 新しい分子標的薬と呼ばれるお薬で、従来の抗がん剤と比較し副作用も少ないため、現在の乳癌の治療で、まず利用を検討するお薬になっています。

但し通常、どちらかと言うと単独ではなく、他の抗がん剤(タキソテール、タキソール等)と併用されることが多いお薬です。併用によって効果を発揮すると言われています。

適応症は以下の通りです。

・HER2過剰発現が確認された乳癌
・HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌

本剤は、中外製薬株式会社により製造販売されています。

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主な副作用

ハーセプチンの主な副作用を、症例の報告の多い順に記載すると、以下の通りです。

・Infusion reactionが発現する

(HER2過剰発現が確認された転移性乳癌)
・発熱がある
・悪寒がする
・無力症になる
・悪心がある
・疼痛がある
・嘔吐する
・倦怠感がある

(HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法)
・悪寒がする
・頭痛がする
・発熱がある
・悪心がある
・疲労する
・駆出率低下がみられる
・爪の障害がみられる

(HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌)
・悪心がある
・好中球減少症になる
・嘔吐する
・食欲不振になる
・疲労する
・下痢する
・手掌・足底発赤知覚不全症候群になる
・口内炎ができる
・腎機能障害がみられる
・しゃっくりがでる
・便秘になる

重大・重篤な副作用

重大・重篤レベルの副作用としては、次の表の症状が想定されます。

重大・重篤レベル副作用リスト
副作用の名称 想定される症状等
Infusion reaction 発熱する、悪寒がある、悪心がある、嘔吐する、疼痛がある、頭痛がする、咳嗽(がいそう)がある、眩暈(めまい)がする、発疹ができる、無力症になる、アナフィラキシー様症状が発現する、肺障害等の重篤な副作用(気管支痙攣、重度の血圧低下、急性呼吸促迫症候群等)が発現し死亡に至る例あり等
心障害 心不全になる、息切れする、労作時呼吸困難になる、胸痛がある、下肢の浮腫ができる、頸静脈怒張がみられる、頻脈になる、心原性ショックをおこす、肺浮腫ができる、心嚢液貯留がみられる、心筋症になる、心膜炎になる、不整脈がみられる、徐脈になる等
心不全 呼吸困難、息苦しい、むくみがでる、咳嗽(がいそう)がみられる、頻尿になる、起座呼吸(起き上がって深く急な呼吸をする)がみられる、疲労感がある、体力が低下する、眠気がある、錯乱する、見当識障害がみられる、足、足首、脚、肝臓、腹部に体液がたまり腫れる・むくみが出る、吐き気がする、食欲不振になる、息切れする、あえぐ、喘鳴(ぜんめい)がきこえる、S3ギャロップがみられる、駆出率低下がみられる、末梢性浮腫ができる等
アナフィラキシー様症状 紅斑ができる、悪寒がする、口唇浮腫ができる、咽頭浮腫ができる、口内の違和感がある、かゆみがある、くしゃみする、顔面が紅潮する、熱感がある、吐き気がする、嘔吐する、尿意がある、便意がある、そう痒感がある、全身が発赤する、顔面や喉頭浮腫ができる、呼吸困難になる、血圧が低下する、喘鳴(ぜんめい)がきこえる、血管浮腫ができる、不快感がある、眩暈(めまい)がする、耳鳴がきこえる、発汗する、頻脈になる、喘息になる、気管支痙攣(けいれん)をおこす、呼吸不全になる、非心原性肺浮腫ができる、胸水がみられる、低酸素症になる等
間質性肺炎 発熱する、咳嗽(がいそう)がみられる、呼吸困難になる、胸部X線異常がみられる、好酸球が増多する、動悸がする、息切れする等
肺線維症(肺胞炎) 息切れする、呼吸困難になる、空咳がでる、発熱する、倦怠感がある、食欲不振になる、疲れやすくなる、チアノーゼがみられる等
肺炎(アレルギー性肺炎等を含む) 咳がでる、発熱する、喉が痛む、喉が腫れる、息切れする等
急性呼吸促迫症候群(きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん:ARDS) 頻呼吸になる、1回換気量が低下する、肺水腫になる、胸部X線上著明な滲出液がみられる、重い呼吸不全がある等
白血球減少 風邪等の感染症にかかりやすい、風邪等が治りにくい
好中球減少 感染症が発現するまでは無症状。発熱する、口や肛門の周りが痛みを伴うびらん(潰瘍)になる、細菌性肺炎等の重症感染症にかかる等
血小板減少(血小板減少症) 手足に赤い点(点状出血)ができる、あざができる、鼻血がでる、歯茎の出血がみられる等
貧血 眩暈(めまい)がする、立ちくらみがする、動悸がする、息切れする、肩がこる、頭痛がする、食欲不振になる、倦怠感がある、肌荒れになる、抜け毛がある、爪の変形がある、むくみがある等
肝不全 黄疸がでる、出血傾向になる、腹水がでる、脱力感がある、肝性脳症になる、全身の健康状態が悪化する、吐き気や食欲不振がある等
黄疸 嘔気がある、嘔吐する、食欲不振である、倦怠感がある、そう痒がある、皮膚や白目が黄色くなる、下痢する、全身の脱力感がある、38度~39度の発熱、ブツブツ状の発疹がでる等
肝炎 白目や皮膚が黄色くなる、高熱がでる、倦怠感が増大する、黄色い尿がでる、淡黄色の便がでる等
肝障害 倦怠感が増大する、食欲が低下する、呼吸困難になる、吐き気がする、常に眠たい、黄疸がでる、AST(GOT)値が上昇する、ALT(GPT)値が上昇する等
腎障害(腎機能障害) BUN値が上昇する、クレアチニン値が上昇する、腎血流量が減少する、糸球体濾過値が低下する、高カリウム血症になる、高尿酸血症になる、低マグネシウム血症になる、尿細管萎縮になる、細動脈病変がある、間質の線維化がある、急性腎不全になる、発熱する、発疹ができる、関節痛になる、血清IgE値が上昇する、好酸球値が上昇する、高度タンパク尿がでる、ネフローゼ症候群になる等
昏睡 まったく覚醒することができない、呼吸のパターンが異常になる、筋肉が異常な位置で収縮したままになる、瞳孔が広がったり光に反応しない、眼球が動かなかったり異常な動きをする等
脳血管障害 手足に力が入らない、手足の痺れ(しびれ)がある、麻痺する、重い眩暈(めまい)がする、激しい頭痛がする、ろれつが回らない、言葉が一瞬出なくなる、ものが二重に見える、歩行困難になる、言語障害がみられる、顔半分が麻痺する、片目が見えない、寝たきりになる、失語する、失認する、失行する、半側空間無視がみられる、意識障害がみられる等
脳浮腫 力や感覚が喪失する、眠気がある、意識不明になる、脳嵌入現象がみられる、脳幹の圧迫がみられる等
敗血症 体温が38度以上または36度未満になる、心拍数が90拍/分以上になる、呼吸数が20回/分以上になる、白血球数が12,000個/μL以上または4000個/μL未満になる、錯乱する、注意力が低下する、血圧が低下する、乏尿がみられる、四肢が冷たく蒼白になる、チアノーゼがみられる、炎症がおこる、臓器機能不全に伴う全身症状がみられる等

 
上記の表にある様な症状が現れた場合には、速やかに医師、又は薬剤師へ報告し、対応を相談してください。

重大・重篤な症状を伴う副作用は、通常滅多にあるものではありません。しかし、服用を開始した際の初期症状には、注意が必要です。

その他の副作用

その他の副作用としては、以下の様な症状が報告・想定されています。

(HER2過剰発現が確認された転移性乳癌)

その他の副作用リスト
副作用の部位名称等 副作用の名称、症状
精神神経系 頭痛がする、運動失調になる、不全麻痺がみられる、しびれ(感)がある、錯感覚がある、眩暈(めまい)がする、不眠症になる、傾眠がみられる、不安になる、うつ病になる、筋緊張亢進がみられる、ニューロパチーがみられる、思考異常がみられる
消化器 悪心がある、嘔吐する、口内炎ができる、腸炎になる、下痢する、腹痛になる、食欲不振になる、便秘になる、消化不良になる
循環器 高血圧になる、血管拡張(潮紅、熱感、発赤)がみられる、頻脈になる、低血圧になる、動悸がする
呼吸器 呼吸困難になる、鼻炎になる、咳嗽(がいそう)がある、鼻出血がみられる、喘息になる、咽頭炎になる、副鼻腔炎になる、胸水がみられる
血液 プロトロンビン減少がみられる
皮膚 皮膚炎になる、発疹ができる、そう痒症になる、脱毛症になる、爪の障害がみられる、発汗する、ざ瘡がある、蕁麻疹(じんましん)がでる、皮膚乾燥がみられる、斑状丘疹状皮疹ができる
腎臓 腎機能異常がみられる
流涙増加がみられる、結膜炎になる、視力障害がみられる
その他 無力症になる、疼痛がある、疲労する、胸痛がある、背部痛がある、筋肉痛がある、末梢性浮腫ができる、関節痛がある、骨痛がある、感染症になる、けん怠感がある、浮腫ができる、頚部痛がある、難聴になる、尿路感染症になる

 

(HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法)

その他の副作用リスト
副作用の部位名称等 副作用の名称、症状
精神神経系 頭痛がする、感覚鈍麻になる、ニューロパチーがみられる、眩暈(めまい)がする、錯感覚がみられる、振戦(しんせん)がみられる、嗜眠がみられる、不眠症になる、味覚異常になる、不安になる、うつ病になる、回転性眩暈(めまい)がする
消化器 悪心がある、下痢する、嘔吐する、口内乾燥がみられる、口腔内潰瘍形成がみられる、鼓腸がでる、口内炎ができる、腹痛になる、消化不良になる、上腹部痛になる、便秘になる、胃炎になる
循環器 動悸がする、ほてりがある、低血圧になる、潮紅がみられる、高血圧になる、頻脈になる、熱感がある、リンパ浮腫ができる
呼吸器 呼吸困難になる、鼻乾燥がみられる、鼻潰瘍がみられる、鼻部不快感がある、鼻漏がみられる、鼻出血がみられる、咽喉頭疼痛がある、咳嗽(がいそう)がある、副鼻腔炎になる、気管支炎になる
皮膚 爪の障害がみられる、発疹ができる、そう痒症になる、爪破損がみられる、皮膚乾燥がみられる、皮膚亀裂がみられる、紅斑ができる、ざ瘡ができる
腎臓 排尿困難になる
その他 無力症になる、悪寒がある、発熱する、疲労がある、関節痛になる、筋肉痛になる、インフルエンザ様疾患になる、上気道感染がみられる(鼻炎、鼻咽頭炎、咽頭炎等)、帯状疱疹になる、乳房痛がある、蜂巣炎になる、四肢痛がある、流涙増加がみられる、体重増加がみられる、冷感がある、疼痛がある、粘膜乾燥がみられる、霧視になる、筋骨格硬直がみられる、末梢性浮腫ができる、背部痛がある、筋痙縮がみられる、胸部不快感がある、粘膜の炎症がみられる、けん怠感がある、骨痛がある、胸痛がある、インフルエンザになる、浮腫ができる、筋骨格痛がある、膀胱炎になる、尿路感染症になる、丹毒がみられる

 

(HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌)

その他の副作用リスト
副作用の部位名称等 副作用の名称、症状
精神神経系 ニューロパチーがみられる、味覚異常になる、浮動性眩暈(めまい)がする、不眠症になる、錯感覚がみられる、頭痛がする、嗜眠がみられる
消化器 悪心がある、嘔吐する、食欲不振になる、下痢する、口内炎ができる、便秘になる、腹痛がある、上腹部痛がある、消化不良になる、口内乾燥がみられる、嚥下障害がみられる
循環器 高血圧になる、動悸がする、潮紅がみられる、起立性低血圧になる
呼吸器 しゃっくりがでる、鼻出血がみられる、咳嗽(がいそう)がある、呼吸困難になる
血液 ヘモグロビン値が減少する
皮膚 手掌・足底発赤知覚不全症候群になる、色素沈着障害になる、脱毛症になる、爪の障害がみられる、発疹ができる、皮膚乾燥がみられる、そう痒症になる
肝臓 肝機能異常がみられる
腎臓 腎クレアチニン・クリアランス値が減少する、中毒性ネフロパシーがみられる、急性腎不全になる
その他 疲労する、無力症になる、粘膜の炎症がみられる、体重減少がみられる、発熱する、悪寒がする、脱水がみられる、低カリウム血症になる、低ナトリウム血症になる、上気道感染する、難聴になる、浮腫ができる、末梢性浮腫ができる、高クレアチニン血症になる、口腔カンジダ症になる、耳鳴がする、過敏症になる、けん怠感がある、低アルブミン血症になる、体重増加がみられる

 

ハーセプチンについて

ハーセプチンは、2008年に販売開始され、主に乳癌の治療で、生存率や再発率を大きく改善しました。

そのため、現在では乳癌に対して、積極的に検討されるお薬になっております。

尚、ハーセプチンに関する治療に際しては、国立がん研究センターから提示されている、「ハーセプチン療法の手引き」が、参考になります。

但し、心不全等の重篤な心障害が発現し死亡した例もあるため、利用に際しては医師と十分にご相談ください。

以下の方は、基本的に禁忌なので、本剤の利用はできません。

・本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある方

以下の方は、原則禁忌です。

・重篤な心障害のある方

以下の方は、このお薬を利用する際には注意が必要なので、医師とご相談ください。

・アントラサイクリン系薬剤を投与中の方
・アントラサイクリン系薬剤の前治療歴のある方
・胸部へ放射線を照射中の方
・心不全症状のある方、又は、その既往歴のある方
・左室駆出率(LVEF)が低下している方
・コントロール不能な不整脈のある方
・臨床上重大な心臓弁膜症のある方
・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症等)の方、又は、その既往歴のある方
・高血圧症の方、又は、その既往歴のある方
・安静時呼吸困難(肺転移、循環器疾患等による)のある方、又は、その既往歴のある方
・高齢の方
・妊婦の方
・妊娠している可能性のある方
・授乳婦の方
・小児等

持病やアレルギーのある方は事前に医師とご相談ください。

 

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